京都地方裁判所 昭和52年(ワ)951号 判決 1978年5月29日
原告
小林弘
被告
小寺清一
主文
一 被告は原告に対し、金二八八万七、九五七円と、うち二六三万七、九五七円に対する昭和五〇年三月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを五分し、その二を被告、その余を原告の負担とする。
四 この判決は原告勝訴の部分にかぎり、仮に執行することができる。
事実
第一請求の趣旨
一 被告は原告に対し、金七二四万四、一九七円とこれに対する昭和五〇年三月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 仮執行宣言
第二請求の趣旨に対する答弁
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
第三請求の原因
一 事故
原告は次の交通事故により傷害を受けた。
1 日時 昭和五〇年三月九日午後八時二〇分ごろ
2 場所 滋賀県愛知郡愛知川町長野一八九〇番地先県道上
3 加害車 普通乗用車(滋賀五五は七五六五)
被告運転
4 被害者 原告
5 態様 被害者が、路上作業中(トラツクの荷物をしばつていたロープがゆるんだため道路左側に停車させロープを結び直す作業をしていた)、反対車線から進行して来た被告運転の乗用車がはね飛ばしたもの。
二 責任原因
1 被告は、加害車を自己のために、運行の用に供していたものであるから、自賠法三条の責任がある。
2 被告は、加害車を運転中前方を注視するべき、注意義務があるのに、これを怠つた過失により本件事故を発生させたものであるから民法七〇九条の責任がある。
三 受傷および治療経過
1 原告は、本件事故により、右大腿骨折・左膝外側側副靱帯損傷・両膝十字靱帯損傷などの重傷を受け、即日、豊郷病院に入院し、同病院で四回にわたり手術を受け、五六六日間同病院に入院したのち、昭和五一年七月二九日に、同病院を退院した。
2 その後も、他の治療機関に通院したりしてマツサージなど治療に専念したが、昭和五二年三月二二日右膝関節には拘縮があり、屈曲困難のため正座不能、日本式便所の使用不能など日常生活に著しい障害を残したまま、後遺症の病状が固定した。
3 原告の右後遺障害は自賠責障害等級第一四級に該当する。
四 損害
1 入・通院慰藉料 金三五〇万円
原告は、傷害を受け、入院期間も五六六日にわたり、その間四回にわたり手術を受け退院後も八ケ月にわたり療養生活を余儀なくされ、本件事故のため立命館大学を二年間休学したことなどの諸事情を考慮すると原告の受けた入通院による精神的損害は三五〇万円を下らない。
2 後遺障害による慰藉料 金七四万円
原告は本件事故により日常生活に著しい右後遺障害を受けたものであるから、その精神的損害は七四万円を下らない。
3 大学を二年間休学したことによる逸失利益 金二四〇万円
原告は本件事故のため立命館大学を二年間休学せざるを得なかつた。そのため一ケ月少くとも一〇万円の割合による二四ケ月分合計二四〇万円の収入を失つた。
4 後遺症による逸失利益 金二四万七、七九七円
原告は、前記後遺障害のため、少くとも二年間は労働能力を一〇パーセントは喪失したのであり、原告の後遺障害による逸失利益は二四万七、七九七円である。
5 入院中の雑費 金二二万六、四〇〇円
入院中の雑費として一日四〇〇円を基準にして入院日数五六六日分で二二万六、四〇〇円になる。
6 弁護士費用 金五〇万円
7 損害填補 金三七万円(自賠責保険金)
五 よつて、原告は、被告に対し前記四1ないし6の合計七六一万四、一九七円から同7の三七万円を控除した七二四万四、一九七円およびこれに対する本件事故発生の翌日である昭和五〇年三月一〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
第四請求原因に対する被告の答弁
一 答弁
1 請求原因第一、第二項は認める。
2 同第三項中豊郷病院に入院治療した事実、および3の事実は、認めるが、その余は不知。
3 同第四項中、損害額は争うが、7の損害填補の事実は認める。
4 原告の左膝は正常であり、右膝の可動範囲は、正常値に比較して一〇度の機能障害を有するにすぎず、この程度ではほぼ正常というべく自賠法別表のどの障害にも該当しない。障害等級一四級と査定されたのは、「局部に神経症状を残すもの」か「下肢の露出面に醜痕を残すもの」に該当すると判断されたものと思われる。
第五主張
一 過失相殺
本件事故発生については、原告にも過失があるから、損害額を定めるにつき過失相殺されるべきである。事故現場は、道路幅員五・五メートルのセンターラインのない道路で、原告は路上に駐車中のトラツクの道路中央側にいたのであり、加害車はヘツドライトをつけていたのであるから、原告は加害車が接近してくることは、充分予見できたはずであり、ほんの少し身をさければ本件事故は回避できたのである。
二 被告は原告の損害中次の金額を支払つた。
内払金
(一) 昭和五一年七月二九日 二五万円
(二) 同年三月 三〇万円
(三) 同年八月から昭和五二年四月にかけて分割払 二九万円
(四) 原告の学費 六万九〇〇円
(五) 原告の寮費 一〇万円
(六) 雑費名目 二五万円
第六被告の主張に対する原告の答弁
一 過失相殺の主張につき、
原告は車上の荷物にかけてあつたロープを結び直す作業をしていたものであり、被告は相当前方から発見できたのに前方注視を怠つたため本件事故が発生したものであるから、本件は被告の一方的過失により発生したものである。
二 弁済の主張につき、
被告主張の金額を受領したことは認める。内払金(一)ないし(三)は原告の両親が両親の慰藉料として受領したものである。
第七証拠〔略〕
理由
一 交通事故、責任ならびに傷害
請求原因第一項(事故)同第二項(責任原因)の各事実はいずれも当事者間に争いがない。そうすると、被告は、本件交通事故により原告に生じた損害を賠償するべき義務がある。
同第三項の事実のうち、原告が豊郷病院に入院治療したこと、3の事実については当事者間に争いがない。成立に争いのない甲第一ないし第三号証および原告本人尋問を総合すると、原告は本件事故により右大腿骨折、左膝外側側副靱帯損傷などの傷害を受け、即日、豊郷病院に入院し、入院五〇九日間で、四回の手術を含む治療を受けた後、昭和五一年七月二九日に退院し、他の治療機関に通院したりなどして治療した。昭和五二年三月二二日には、右膝関節に拘縮があり、屈曲困難で正座不能、日本式便所の使用不能で日常生活に著しい障害があり、左膝の靱帯損傷のため長時間歩行が困難で、疲労し易い状態で、右膝関節の屈曲に障害があり、右一二〇度、左一三〇度と認定される後遺症を伴つて症状が固定したことが認められる。
二 損害 四八〇万九、九四七円
1 入通院慰藉料五〇九日間の入院日数、病状固定まで退院後八ケ月余かかつていること、原告本人尋問の結果によると、原告が大学を二年間休学せざるを得なかつたことが認められ、これらの事情を考慮すると、入通院によつて受けた精神的苦痛による損害は二三〇万円であると認めるのが相当である。
2 後遺障害による慰藉料後遺症が第一四級の後遺障害等級で、さきに認定した固定症状を考慮してその精神的苦痛による損害は三七万円であると認めるのが相当である。
3 大学を二年間休学したことによる逸失利益
原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故当時、立命館大学一回生であつたが、本件事故のため二年間休学し、現に同大学に在学していることが認められ、原告は、本件事故がなければ、昭和五三年三月には同大学を卒業でき、同年四月には就職して収入を得ることができるのが通例である。しかるに、原告は、昭和五五年三月に卒業できるものとされ、結局、賃金センサス昭和五〇年一巻一表による大学卒二〇歳から二四歳の月額所定内給与額九万五、八〇〇円(年額一一四万九、六〇〇円)の二年分(昭和五三年四月から昭和五五年三月まで)を失つたことになる。
昭和五三年四月から昭和五四年三月までの分 一〇九万四、八五七円
1,149,600×0.9523809=1,094,857
昭和五四年四月から昭和五五年三月までの分 一〇四万五、〇九〇円
1,149,600×0.9090909=1,045,090(円以下切捨て)
現在値 合計 二一三万九、九四七円
4 後遺症による逸失利益
原告の後遺症は第一四級であるが、原告は大学生であるため、事故前の収入と後遺症固定後の収入の差額に基づく収入減の立証もなく、また、現実の職種との関連におき労働能力の低下が主張されているわけでもなく、二年間に労働能力を喪失したものとは認められず、前記慰藉料をもつて充分とすべきであり、原告が二年間の後遺症による逸失利益を請求することは失当というほかはない。
三 過失相殺の主張について
乙第四、第五号証、同第七号証、同第九、第一〇号証双方本人尋問の結果を総合すると、原告は、トラツクの荷物のロープを絞め直すためとは言え、事故発生防止措置をとることなく、夜間道路中央付近に立つていてライトをつけて近接してくる加害車にも全く気づかず、接触を避けなかつたもので、事故現場は、両側ともほとんど田で、歩道もなく、センターラインもない幅員五・四メートルのアスフアルト舗装の道路であり、被告が制限速度の時速四〇キロメートルをこえ同五〇キロメートルで走行していたことが認められ、これらの事情を考えると原告に二割の過失を認め、過失相殺するのが適当である。そうすると、原告の右損害は三八四万七、九五七円(円以下切りすて)となる。
四 弁済について 一二一万円
自賠責保険金三七万円を原告において受領したこと、被告主張の内払金を原告において受領したことは当事者間に争いがない。原告は、内払金(一)(二)(三)の合計八四万円については原告の両親が慰藉料として受領したものであると主張するけれども、これを認めるに足りる証拠はない。したがつて、原告の損害に対する内払金とみるべきものである。
内払金(四)(五)については成立に争いのない乙第一二ないし一四号証ならびに被告本人尋問の結果によれば、それぞれ原告の学費、寮費として支払われたものであることが認められ、原告は本訴請求において学費、寮費の請求をしていないから、右金員は原告の損害に充当できるものではない。
内払金(六)については成立に争いのない乙一五号証によれば、原告入院中の雑費として被告が支払つたことが明らかである。したがつて、原告が請求する入院中の雑費二二万六、四〇〇円(入院期五〇九日間、一日四〇〇円あて二〇万三、六〇〇円の限度で認容できる)はすべて支払いずみである。
そこで、原告の右損害三八四万七、九五七円から弁済額一二一万円を除すると、二六三万七、九五七円となる。
五 弁護士費用
右認容額ならびに本件記録にあらわれた諸事情を考慮すると、被告において本件事故と相当因果関係にあつて負担すべき弁護士費用は二五万円とするのが相当である。
六 そうすると、被告は原告に対し、本件交通事故の損害賠償として右合計二八八万七、九五七円とうち二六三万七、九五七円に対する本件事故発生の翌日である昭和五〇年三月一〇日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いをなすべき義務があることが明らかである。よつて、原告の本訴請求は右の限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 小北陽三)